【初級日本語】直説法・間接法どちらを使う?

この記事では、日本語を教えるのが初めての先生向けに「直説法」「間接法」の違いやそれぞれのメリット・デメリットをまとめています。更に「英語ができないけどどうやって日本語を教えるのか」や「私は英語が得意だけど学習者が英語ができない場合、どうやって日本語を教えるのか」などの疑問に、国内/国外で教えた日本語教師が答えていきます。

2021/11/07

直説法とは?

直説法とは、媒介語(学習者の母語や英語)を使わずに、日本語を使って日本語を教える方法です。

「日本語が全く分からない人に、どうやって日本語だけで日本語を教えるの?」と思う人も多いと思います。

結論から言えば日本語が全くわかない人にも、日本語だけで日本語を教えることは可能です。ただ、それには教師の事前準備が必要です。それは「絵教材」と「既習語彙・文型のチェック」です。

・直説法とは、日本語を使って日本語を教える方法
・直説法で教えるには、事前準備が必須
・事前準備とは「絵教材」と「既習語彙・既習文型のチェック」

考えてみてください。例えば、「ドアを開けます」と「ドアが開きます」を説明しようと思ったとき、皆さんならどうしますか?

「開けます」は他動詞で主体が私になりますが、「開きます」は自動詞で主体がドアで…などと説明しても学習者は混乱するだけですね。

こんなとき、絵教材を使います。

説明するときは、「主体」とか「それに対して」などといった未習の言葉を使わず、既習の言葉・文型だけでシンプルに

「ドアを開けます。私がドアを開けます。人が~します。「開けます」を使います」
「ドアが開きます。私はしません。物が~します。「開きます」を使います」

などと説明します。

間接法とは?

間接法とは、媒介語(学習者の母語や英語)を使って日本語を教える方法です。

みなさんも学校で英語を習ったとき、先生は日本語で説明してくれましたね。それが間接法です。こちらの方がイメージが湧きやすいんじゃないかと思います。

間接法では既習語彙や絵教材は必要ありませんが、きちんと媒介語で説明できなければなりませんから、教師の語学力は必須です。また学習者は分からない箇所の質問を媒介語でするので、それに対応する力も必要です。

・間接法とは、媒介語(学習者の母語や英語)を使って日本語を教える方法
・説明力・語学力が重要
・予期しない質問にも対応する力が必要

先ほどの「開けます」「開きます」の例を取るとこんな感じで説明します。

Today we will study "intransitive verbs" and "transitive verbs". In Japanese, there are a lot of "transitive" and "intransitive" verbs that are paired together, such as "開きます" and "開けます".
"開きます" and "開けます" are both "Open" in English, but in Japanese, the usage is a little different.
In the case of "開きます," the object itself becomes the subject and acts on itself. For example, "ドアが開きます". It means the door will open. On the other hand, in the case of "開けます," the person becomes the subject, and the person acts on the thing. For example, "ドアを開けます".  It means I'll open the door. In Japanese, the subject is often omitted, so instead of saying, "私はドアを開けます," just say, "ドアを開けます".

どんな時に直説法を使うのか?

直説法は古くから日本語教育の中で使われてきたやり方で、多様な国籍の学習者が一つの教室で日本語を学ぶときによく使われます

考えてみれば、ベトナム語話者、中国語話者、韓国語話者、ヒンズー語話者、英語話者の中で授業をするとき、教師が英語を使ってしまったら、ある学習者は理解ができずにいるのに、英語話者はどんどん質問をする...という状況になってしまい、クラス内で理解度にバラつきができてしまいます。

クラスの公平を保つためにも、このような環境で日本語を教える場合は、日本語のみで説明をする方がいいですね。日本国内の日本語学校でも直接法をとる学校が多いのは、これが理由になっています。

また、教師が分かる言語と学習者が分かる言語が違う場合も直説法を取ります。教師は日本語と英語が分かっていたとしても、学習者がベトナム語のみの場合は、直説法で教えます。

どんな時に間接法を使うのか?

間接法は、一つの国籍(言語)の学習者が一つの教室で日本語を学ぶときによく使われます

海外で間接法がよく使われているのは、これが理由です。私がタイで教えていた時は、タイ人のみのクラスではタイ語を使って教えていましたし、タイ人とアメリカ人、韓国人がいるクラスでも皆英語がある程度わかる学習者の場合は英語で教えたこともありました。

またグループレッスンではなくプライベートレッスンなどでは、間接法をよくとります。教師と学習者が共通して理解できる言語があるのにもかかわらず、間接法で30秒で教えられるところを、直説法で5分も回りくどく教えていては時間も無駄になってしまいますし、学習者も不満に思ってしまうでしょう。

直説法/間接法のメリット・デメリット

直説法のメリットとしては、リスニング力スピーキング力が格段に伸びることです。

授業内では常に日本語のシャワーを浴びているので、日本語を聞く力、日本語で質問する力がつきます。授業内では日本語しか使えない環境なので、学習者も自分の伝えたいことをどういう風に伝えれば伝わるか、ということを考えるようになります。

私が教えた学習者の中には「日本では光熱費はどこで支払えるか」という内容を「電気と水のお金はどこで払いますか」などと質問した人がいました。このような質問は直説法で鍛えられているからこそできる質問だと思います。自分の知っている言葉でいかに相手に伝えられるかが言語が上手くなるコツだと思います。

直説法のメリット
・リスニング力・スピーキング力・質問力が格段に伸びる

デメリットとしては、説明に時間がかかること(教師は準備に時間がかかること)、学習者の発話が少なくなる傾向にあるということです。

初級の学生を教える先生は特に、知っている言葉が少ない学習者に教える時は、絵教材の準備と学習者が分かる言語をチェックする事前準備が必要です。また、学習者は習いたての日本語での発話に自信がないので、教師が上手く発話を誘導してあげなければ、教師のワンマンショーのような授業になってしまいがちです。

例えば
T:「昨日の夜は何を食べましたか」
S:「えっと、分かりません」
T:「何が分かりませんか」
S:「…分かりません」

このような授業例を見たことがあります。教師は上手く発話を促す必要があります。そのためには事前に学習者が答えそうな内容を把握することが必要です。

T:「昨日の夜は何を食べましたか」
S:「えっと、分かりません」
T:「日本の食べ物ですか、アメリカの食べ物ですか、ベトナムの食べ物ですか」
S:「ベトナムの食べ物です」
T:「どんな食べ物ですか」
S:「…」
T:「肉ですか、魚ですか、野菜ですか」…

このように教師側のスキルも必要になってきます。

直説法のデメリット
・説明に時間がかかる(準備に時間がかかる)
・教師側のスキルがないと学習者の発話が少なくなる

一方で、間接法のメリットは、文法説明が簡潔にできるためよりスピーディーに授業が進み、尚且つ分からないことがすぐ質問できることです。

絵やジェスチャーで説明すると時間もかかる上に、未習の言葉や忘れてしまった言葉があると、学習者の理解も低くなってしまいます。それが間接法だと解消され授業もサクサク行えるので、忙しい社会人の方にとってもいい方法だと思います。

間接法のメリット
・文法説明が簡潔にできる
・すぐ質問できる

間接法のデメリットは、リスニング力・スピーキング力・質問力が伸びにくい点です。

日本語を聞く機会も減ってしまうため、書いてあることは理解できるけど、いざ話されると聞き取りができなかったり、教師が媒介語ができると分かっているため、日本語でできる質問も媒介語でしてしまうことが多いです。

日本人の英語も、文法知識はあるのに話せないという人が多いですよね。これは間接法で教えられたことが大きく関係していると思います。

間接法で教えていても、やはり教師がいかに発話を促すか、が鍵になると思います。

間接法のデメリット
・リスニング力・スピーキング力・質問力が伸びにくい
・知識先行で実際の会話が弱くなる傾向がある

結局どちらで教えるのがいいの?

極論を言えば、直接法も間接法もでき、学習者やその時々によって使い分けられるのが一番いいと言えます。

国内の日本語学校によっては、少人数の一つの国籍(言語)だけのクラスでも直説法をとるように言われたり、日本語教師は日本語さえできればいいと言われて疑問に思ったことがあります。

私は直説法・間接法にこだわらず、その学習者が一番分かりやすい方法で教えることが重要だと考えています。

一昔前だと、学習者のほとんどが英語が分からない多国籍のクラスが主流だったため、直説法が多く取られていました。しかし現代になり学習者の背景も変わってきていて、グループレッスンもあれば、少人数レッスン、プライベートレッスンもあり、教室内だけでなくオンラインでも授業が行えるようになり、ある程度の英語なら理解できる人が増えています。

このように時代にあった教え方を教師自身が選択することが重要になってきていると思います。まずは学習者のことをよく見て、どんな教え方がいいのか考えてみるといいと思います。

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